お口徹底解説〈Part1-2〉口腔の基礎知識:「よく噛んで食べる」ことが大切な理由を理解する

こんにちは、歯科衛生士・こども成育インストラクターの宗田香織です。

 

「お口徹底解説」連載2回目は、「咀嚼力」にフォーカスしてみたいと思います。

 

咀嚼力=パワー(馬力)のこと?

『良く噛んで食べなさい!』と、親御さんから子どもの頃に言われたことは

誰しも一度はあると思います。

 

では、「良く噛む」とは一体どのようなことでしょうか。

 

まず頭に浮かぶのは、「パワー=硬いものを一所懸命噛み砕く力」

ではないかと思います。

 

 

しかしながら、原始時代の食事のように、火や調理器具もなく食材をそのまま、

またはわずかに手を加えるだけで食べていた時代と比べて、現代の食事は調理した状態で

提供されることが殆どなので、顎が痛くなるほど硬いものを無理に食べる必要はありません。

 

ですから、咀嚼において重要な機能は「パワー」だけではないのです。

 

食べ物を細かくすり潰し、唾液と混ぜ飲み込みやすくする事も含まれます。

 

パワーに加えて、「歯と筋肉の協調運動が器用に行えているか」

という巧緻(こうち)性も重要になります。

 

 

咀嚼は硬いものを粉砕するだけではなく、かなり繊細な動きが必要なのです。

 

例えば、砂や卵の殻などの異物や毒、腐敗したものなど体に害になる物を

硬さの違いや食感で感知し、舌や口腔周囲筋と協調して口腔外へと

排出させる働きもします。

 

また栄養を取り込むには、舌を含む筋肉との協調動作により

食べ物と唾液を混ぜることによって以下のようなことも行っています。

 

・味をしっかり感じ『美味しい』と感じる

・食べ物のかたまり(食塊)を作り嚥下を正常に行う(誤嚥防止)

・唾液中の消化酵素と混ぜて胃腸の負担を軽減する

 

 

日々の食事を通して、咀嚼という行動も成熟していき巧緻性も上がります。

 

例えば、絵を描く動作を観てみると

 

子ども→クレヨンやマーカーなどを握って持ち、大きな図柄の塗り絵などを豪快に塗りつぶす

大人→ペンや鉛筆などを使って、線の太さを自在に変え繊細なタッチで描く

 

など、手指の器用さが段々と発達していきますね。

 

同様に、食事を繰り返すことで食べる行動を学び、縦横無尽にスムーズに動かす

しなやかさを備えていくことで、顎や舌を使った咀嚼の巧緻性も発達していくのです。

 

食べることの他の作用

認知症の研究で、歯の本数が多い人ほど認知症になりにくい・進行が遅い

という研究結果があることをご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

噛むことで歯から顎骨に刺激が伝わり、顎骨や顔貌の成長促進や脳の働きも

活発になります。

 

噛むことが成長期のお子さんの脳の発達や、精神的な安定にも繋がるという

報告もあります。

 

咀嚼は単に食べ物を細かくして胃腸に送り込むだけではなく

様々な役目を担っているのですね。

 

 

繰り返しになりますが、咀嚼で重要なのはパワーだけではなく、

臼歯(奥歯)で食べ物を粉砕し擦り潰すことです。

 

最近ではスムージーなど飲み物を朝食代わりにしたり、柔らかい食べ物を嗜好する

傾向があります。

 

テレビ番組の食レポなどを観ていても、「口の中でとろける」「歯がなくても

食べられる」というコメントが、「美味しい」という表現になっていて

“噛まない食生活”が好まれつつあります。

 

けれど、“噛んで食べる”ことが子どもの成長過程において

全身の機能向上や生命維持においても重要になります。

 

食材選びや切り方・メニューを決める際には、“咀嚼回数が多くなる方”を

ぜひ選択するよう心がけてほしいと思います。

 

 

次回は、「よく噛む」ために子どもの頃からやっておくこといいことを

ご紹介します!

 

《参考資料》咀嚼に関してより知りたい方はこちらもご一読ください。

【よく噛む子は肥満にならない?!】医師監修、「噛む力」で子どもの頭と体の発達が変わる!

GAKKEN 「こそだてまっぷ」

https://kosodatemap.gakken.jp/life/health/9964/

 

宗田 香織

1996年 東京都歯科医師会附属歯科衛生士専門学校を卒業後一般歯科や審美・矯正歯科などにて勤務。

2000年 Dr岡本・Dr竹内よりスウェーデン歯周病学を学び、歯周治療・メンテナンス・

インプラント予防管理を中心に歯科クリニックに勤務。

2018年10月よりこども成育インストラクター〈食専科〉アンバサダーとしても活動中。

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