お口徹底解説〈Part1〉口腔の基礎知識:食事の悩みをお口の状態・機能・大人と子どもの違いから読み解く

こんにちは、歯科衛生士・こども成育インストラクターの宗田香織です。

今回から、「お口徹底解説」というテーマで連載をしてまいります!

 

私が日ごろクリニックで患者さんから受けている質問や、歯科関連学会で実施した調査結果などから

浮かび上がってくる「お口の疑問」について、わかりやすく解説していきたいと思います。

 

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第1回は「大人と子どもの口腔の違い」、特に歯の本数やサイズ・機能に焦点をあてて考えていきます。

 

乳歯が生えてきて、離乳食を徐々に卒業していく時期は、「離乳食やっと終わったー!」という気持ちや

「これからは大人と子ども別々に作らなくても良くなった!」という開放感、家族で同じものを食べられる一体感・幸福感を感じ

親子の成長も実感できる頃ですね。

 

それに反して、「思うように食べてくれない!」というご家庭も多いのではないでしょうか。

クリニックでも、「乳歯が全部生え揃って離乳食も完了したのに、大人と同じものを食べてくれない」

というお声を伺うこともしばしばあります。

 

では、どうしてこういった事態が起きるのでしょうか。

大人と子どもの「お口の違い」から、その理由を紐解いてみましょう。

 

大人と子どもの歯の本数の違い

皆さんはご自身(大人)の歯の数をご存知ですか?

クリニックでも、「歯って普通何本あるんですか?」という質問を受けますが

「何本だと思いますか?」と聞き返してみると皆さん自信なく答え、正解が出ることは少ないです。

 

そんな時はレントゲン写真や顎模型を一緒に観察して数えてもらいます。

 

成人の歯(永久歯)の数は、28本 (親知らずを入れると32本)で

歯列を上下左右に分けて数えると、前歯から順に1〜7番までそれぞれ7本ずつあります。

 

学校や会社の歯科検診などで「右上7〜1まで斜線、反対側1・2番C(シー)3から7まで斜線、下に行って…」など

聞いた覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

また歯の種類(役割)も別れていて、それぞれ本数も決まっています。

・前歯(ぜんし)…8本 食べ物を一口大に噛み切る

・犬歯(けんし)…4本 骨に付いた肉などを齧り取る

・臼歯(きゅうし)…16本 細かくして口の中に取り込んだ食べ物を磨り潰して、唾液と混ぜ丸め(食塊)飲み込みやすくする

 

この包丁やすりこぎのような働きをしている歯に加えて、それを力強く、またしなやかに動かしている

たくさんの筋肉(口腔周囲筋:咀嚼筋群、表情筋群)を使って、“食べる(咀嚼・嚥下)”動作を行っています。

 

では、子どもの歯の本数を見ていきましょう。

子どもの歯(乳歯)の数は、20本です。

・乳前歯…8本

・乳犬歯…4本

・乳臼歯…8本

上下左右5本ずつあり、乳歯は永久歯と区別するため前歯から順にA〜Dと読んでいます。

永久歯列と乳歯列の違いのひとつは馬力

永久歯と乳歯の種類ごとの役割は大人と子どもで同じですが、顎模型(写真)で比べるとそれぞれに対応する歯の大きさもかなり違いますし

大人の歯の臼歯の本数16本と比べると、子どもの臼歯は半数の8本しかありません。

 

歯だけではなく、頭蓋骨(頭の骨)や顎骨(顎の骨)の成長や筋肉も含めた顔の大きさを比べても

大人と子どもでは違いがあります。

 

これは、咀嚼時のパワーの差があることに繋がります。

 

この差があるのに“大人と同じ食事が食べられる”機能はあるでしょうか。

子どもが成長すると

「◯才だから◯◯ができる」

「お兄ちゃん(お姉ちゃん)になったから、もう◯◯して欲しい」

「離乳食が終わったから大人と同じものが食べられるはず」

と大人目線で捉えがちですが、お口の仕組みや大人と子どもの身体の違いを知ることで見えてくる事があると思います。

 

乳歯列が完成しても、永久歯列と比べて数が少なく大きさも小さいことを考慮し

誤嚥や窒息予防としても食事を提供する際には

・離乳食が終わっても食材の大きさは大人の物より少し小さめにする

・繊維のある物は切る方向に配慮する

・長めに火を通して柔らかくする

などサポートの必要性を感じます。

 

乳歯列から永久歯列~口腔内変化の大きい時期は食事と共に口腔ケアにも注意が必要 

3才頃でいったん乳臼歯列が完成しますが、5〜6才頃になると乳歯から永久歯に生え代わる時期には

痛みや違和感で食事が摂りづらい時期になります。

 

「グラグラしている歯があるからいつも口の中が気になり変な食べ方になる」

「食べたくても食べられない」

「今まで食べていたもの(好きなもの)でも嫌がって食べない」

「甘い物・冷たいもの・喉越しの良いものばかり好むようになり噛まない」

など、一見選り好みやわがままに見える行動も、口腔の成長過程において自然と現れる現象なのです。

 

大人が食事の用意をする大変さもありますが、栄養も十分に摂取して欲しい時期でもあるので

子どもの成長において出てくる変化を、大人が理解・支援していく必要があります。

 

またこの時期になると、仕上げ磨きをやめてしまうご家庭も多く見受けられますが

・グラグラしている歯をいつもより優しく磨く

・乳歯より奥に生えてきた永久歯を見逃さずにワンタフトブラシ(一束の小さいブラシ)を器用に使って磨く

・乳歯と生えたての歯の段差を磨く

などが心がけてほしいところです。

 

お子さんひとりで行うにはなかなか至難の業ですので、成長に応じてサポートの方法を変化させながら

永久歯列完成(12才頃)までは、仕上げ磨きは続けていただきたい時期です。

 

口腔内の変化も目まぐるく、段々と大人の手が離れる時期にも差し掛かってきますので

ご家庭だけのサポートですと十分出来ない場合もあります。

 

生え代わりに異常がないか、虫歯や歯ぐきの腫れ(歯肉炎)がないかをチェックしてもらったり

磨くのが難しいところを定期的にクリーニングして虫歯や歯肉炎(将来の歯周病の種)の不安軽減に繋げるためにも

定期的に歯科医院受診を続けることをおすすめします。

 

次回は、お口の大切な機能である「食べる」ことに注目し、「よく噛むこととは?」という疑問を

解説してまいります! お楽しみに♪

 

 

宗田 香織

1996年 東京都歯科医師会附属歯科衛生士専門学校を卒業後一般歯科や審美・矯正歯科などにて勤務。

2000年 Dr岡本・Dr竹内よりスウェーデン歯周病学を学び、歯周治療・メンテナンス・

インプラント予防管理を中心に歯科クリニックに勤務。

2018年10月よりこども成育インストラクター〈食専科〉アンバサダーとしても活動中。

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