前回は、7つの領域を軸にした「こども発達スケール®」から
「オヤトコ診断」が生まれた背景をお伝えしました。
第3回:こどもの能力の特徴をどのように見分けるのか はこちらからお読みください。
沢井佳子先生の開発ストーリー最終回の今回は、「オヤトコ診断」を使って
どのようにお子さんの能力を伸ばしていったらよいのかを伺ってみました。
―こどもの能力を伸ばすための「おやとこ診断」の活用法とは
沢井:「オヤトコ診断」では、話すことや表現することが得意な「おはなしだいすき」、
数を数えたり予測したりすることが得意な「すいりめいじん」、
誰かの役に立つことが好きな「おせわだいすき」、
おもちゃの分解など物事のしくみに興味がある「ものしりはかせ」の4つの領域に分類し、
今のお子さんの興味関心がどこにあるかをお知らせしています。
お母さん方には、ぜひその診断結果をもとに、いまお子さんが好きな領域を上手に使いながら、
親子で楽しく遊ぶという体験をたくさんしていただきたいと思います。
「好きこそ物の上手なれ」とはよく言いますが、得意だったり、
やる気があったりする分野で遊んでいれば、当然ながらその分野に関わる能力は
グーンと盛り上がっていきます。
そして、カブトムシやチョウチョが好きで興味を持って観察しているうちに、
昆虫図鑑に関心を持つようになる。
それを読むためにひらがなやカタカナをどんどん覚えていく…というように、
得意な領域で遊んでいるうちに、ほかの領域の能力も連鎖的に、おのずと引き上げられていくのです。
「オヤトコ診断」では、さらに親子の関係性を把握できる「ママエゴグラム診断®※」の要素も
取り入れています。
お子さんの興味関心の領域、お母さんのタイプ、そして親子関係のタイプをクロスさせながら、
それぞれのお子さんやご家庭に応じたアドバイスを提供するというのが、「オヤトコ診断」の目的です。
お子さんによって、興味関心の領域は多種多様です。
すべての領域でパーフェクトというのはよほどの天才に限りますので、凸凹があって当たり前。
気にする必要はありません。
大切なことは、お子さんが「何が得意なのか」ということに注目することです。
たとえて言うならが、お子さんが「赤」の能力に長けているのであれば、
より鮮やかな赤になるように伸ばしてあげてください。
他の領域は放っておいていいというわけではありませんが、「どうしてこんなこともできないの」と
ネガティブなところから入って、そこを鍛えるといった学習ではなく、ある能力が高くなっていくことで、
ほかがスルスルとつられて上がっていくような、ポジティブな学習経験を幼児期には増やしていただきたいのです。
お母さん方はそうした学習のガイド役になりますが、お母さんご自身が物知りである必要はまったくありません。
ハーバード大学名誉教授や京都大学数理解析研究所元所長などを歴任した広中平祐という数学者の自伝に、
母親とのエピソードがありました。
広中は尾道の出身ですが、母親は特に学歴もない田舎の人だったと記しています。
好奇心旺盛で山ほどの質問をする広中に対して、母親はその内容によって校長先生や医者、
町の有識者のところに連れて行って、「私にはわからないので、教えてやってください」と
頼んでくれたそうです。
広中は母親のそうした姿勢から学んだと言います。
わからないことがあれば、知っていそうなところに積極的に聞きに行く。
成長した後も、その姿勢を広中はずっと真似ているし、母からの立派な教えだったと述べています。
お子さんに質問されると、「正しい答えを教えなければ」と気負いがちです。
けれど、お母さんもわからないことであれば、わからない者どうしで「こうかしら、ああかしら」と
楽しく仮説を話し合ってみたり、今の時代であれば一緒にインターネットで一流の情報源にアクセスして
リサーチしてみたり、という付き合い方でいいと思います。
こうしたことが、こどもの能力を伸ばしていく立派な「遊び」となるのです。
これからも「オヤトコ診断」がこうした親子のコミュニケーションの礎となれるよう、
実証を積み重ねながら、さらに信頼性の高いものへと改良してまいりたいと思っています。
※ ママエゴグラム®診断(一般社団法人NICCOT)は、アメリカの心理学者エリック・バーン博士が開発した
「交流分析」という人間関係の心理学理論に基づいて作られた性格診断テスト「エゴグラム」をベースに、
子育て中の親特有の項目を加えて分析ができるように開発しされたものです。