前回は、Webアプリ「オヤトコ診断」のベースとなっている「こども発達スケール®」の
7つの領域の設定の理由について、沢井佳子先生に伺いました。
第2回:「こどもの能力を見分ける7つの領域とは」 はこちらからお読みください。
今回は、いよいよ「こども発達スケール®」から「オヤトコ診断」が生まれるに至った背景に迫ります。
―こどもの能力の特徴をどのように見分けるのか
沢井:7つの領域に関わる能力をまんべんなく刺激し、
「こどもの思考をはぐくむ遊び」の仕掛け創りをめざして、
映像や印刷教材、教育玩具などを開発してきましたが、
その中で、お子さんによって映像の見方や、ワークブックなどの取り組み方に、
かなりの差が生じてくることが、とても興味深く思われました。
たとえば、毎月送られてくるワークブックで、
あるお子さんは「言葉」の課題はササッとすぐにやってしまうけれど、
「数量」の課題はどうも後回しにするようだ。
女の子は「図形」が好きじゃないお子さんが多いように見える。
そういった傾向が目に見えてくるのです。
お母さんにしてみれば、「苦手なところにどうやって取り組ませたらよいものか」
ということに意識が向かいがちですが、ワークブックの「虫食い具合」を観察することで、
そのお子さんの「今」の興味関心がありありと見えてくるのです。
「放っておいても『言葉』のパートはやるね」
「今は『社会』的なことに興味があるのね」
「自由自在な『表現』ができる絵が好きらしい」
「どうしても『論理』的なことに関心が向くようだ」
こうした、それぞれの子どもの傾向を見るためにワークブックを提供しているというわけではないのですが、
研究者が見れば、その子の好奇心の傾向が、ワークブックの取り組みの跡に見えてくるのです。
「これをお子さんの『今の関心領域』を理解するものとして、役立てることはできないだろうか?」という発想が、
「オヤトコ診断」の出発点となりました。
7つの領域でお子さんの興味関心がどこにあるのかということを表現することは、
知能の良し悪しを測ることではありませんし、ましてや「こういうタイプのこども」というふうに
気質や性格を断定することでもありません。
2歳ぐらいではとても「おせわだいすき」だったお子さんが、そこから発展して物の仕組みなどに
興味が向かう「ものしりはかせ」の特長が伸びることもあります。
テーマパークの多様な「ゾーン」を回遊して遊ぶがごとく、こどもたちは7つの異なる領域を
自由なルートで回遊しながら、幅広い思考を育んでいくのです。
現代は、こどもに関する様々なニュースがあふれています。
そうしたニュースにわが子を当てはめて、「うちの子は知能が進んでいるのだろうか」
「引きこもりにならないような社会性は育っているだろうか」というように、
お母さんやお父さんの心配ごとは尽きません。
「わが子が人並みに育っているの?」という心配にとらわれると、
お子さんの「偏り」ばかりに目が行きがちです。
かといって、お母さんやお父さんが、7つの領域を参照しながら、
お子さんの思考のしかたや関心のありかを把握することも難しいでしょう。
たとえば、「論理性がある」ことと、「言葉のボキャブラリーが豊富」ということは異なる能力なのですが、
おしゃべりの上手なお子さんは論理性があると、大人から判断されがちです。
他方、ほんとうに論理性があるのに、言語表現を余りしないお子さんは、
その論理的な思考を大人に発見してもらえないまま、力を伸ばす機会に恵まれない…
ということもありうるのです。
そうした見分け方が難しい子どもの知的な活動を「見える化」することができたら、
おうちの方がお子さんを理解するのに役立ちますし、
なによりお母さん、お父さんの安心につながるのではないか。
そういう想いが起点となって、「オヤトコ診断」の開発プロジェクトが立ち上がりました。
第4回へ続く。